Backpackの凡人



Gold Rushの時代 この地の銅とそれを求め続けた欲望
時代の流れの中で、それらは泡沫の夢と消えました。

2004夏のアラスカです。この旅も残すところ、あと2日という時に最後に訪れた場所です。写真はアラスカの典型的ツンドラの大地。そこを真っ直ぐに走っている道路が見えます。Glenn Highwayです。険しいチュガッチ山脈、氷河、ツンドラ等、アラスカらしい景色を楽しめる道路です。凡人はこの道路を東に東に爆走。更に、砂利道McCarthy Road(←結構整備状態よい道路で4WVでなくても普通の車で行けます)を4時間運転していきついた場所は
McCarthyっちゅうところ。Wrangel & St. Eliasという山を含めて5000m超える山々の連なる場所の奥の方です。この一帯、国立公園、世界遺産に指定されてます。写真はMcCarthyの駐車場。ただの砂利の広場です。ココに車を停めます。
人は極めて少なく、駐車場には車10台くらいだけ、言ってみればガラガラ。プロペラ機ではともかく車ではAccessが難しすぎる場所なのです。そのガラガラの駐車場の向こうには巨大な氷河が見えています。幅5kmくらいある巨大な氷河です。ちなみにこのWrangel & St. Elias国立公園内にはマラスピナ氷河という世界最大の氷河もあります。幅80km、面積2200平方mという想像絶するデッカサだそうです。
その氷河の溶けた水が川になって駐車場すぐ横を流れてます。橋が架かっていますがこの橋、底は金網...氷河からの水量が増せば水没するのです。川は灰色の凄い濁流です。氷河の作ったアラスカらしい川といえます。
えー、上で見た氷河は左の写真の赤い奴で、今いるMcCarthyの駐車場は青○のところ。(ピンク色のMcCarthy RoadでMcCarthyまで来ました)ここから10キロくらいシャトルバスで氷河の脇の砂利道(紫)を行くとKennicott(緑○)という場所に至ります。その場所がこのWrangel & St. Elias内で比較的簡単に行ける最奥地なのでそこまで行きました。そこに何があるのかはよく調べずに行ったので知りませんでしたが、とりあえず一番奥まで行っておこうかと、それだけのことですね。
一番奥には何やらでっかい建物がありました。なんじゃろか?
聞けば、銅鉱の精錬所の跡だそうな。ここはアラスカ最大のGhost Townだということが分かりました。かつてKennecott Copper Corporation(Kennecott銅精錬会社)という銅の精錬会社があったそうな。Gold Rush時代に金銀銅求めて世界中が先を競っていた時代、1900年にアラスカ人探検家がこの山肌に緑色の岩肌を見つけます。それは世界でも最高クラスの含有量を誇る銅鉱石だったのです。Kennecott copper mineと命名されます。当初、採掘した銅鉱そのものを鉄道で太平洋側の漁村Cordovaまで運び出し、そこから蒸気船でシアトル南のTacomaまで運び出してそこで精錬してましたが、あまりに運送代が莫大なため、この場所に精錬所建設しました。Kennecott Copper Corporationの誕生(1906年)です。ちなみにKennecott Copper Corporationにしても、Kennecott copper mineにしてもこの場所の名Kennicottとは一文字違います。(i→eになってます)Kennicottが正式であり、それはこの場所に氷河他を発見した探検家の名前Robert Kennicottからとったものです。銅鉱山、会社のKennecottは会社を設立した社長さん達がしでかしたスペル間違いですがそのままになってます。笑
銅精錬所が完成し此処Kennicottは大いに栄えます。実際に200億円以上の銅をこの場所は産みました。それにしても、こんな辺鄙で極寒なこの場所に労働者は集まったのでしょうか?それが集まったんです。それはここの賃金の良さがありました。銅自体はアメリカ本土のミシガン州でも時を同じくして発見され精錬所がそこにも作られました。しかし、この場所の給料は実にミシガンの5倍も良かったのです。ですから、最盛期にはホテル、学校、病院、映画館などを備える800人もの人が集まっていたそうです。
そして精錬した銅を、鉄道(写真の鉄道はもう今は使われていません。朽ち果ててます。)でドンドン運び出していたんですね。豊富な銅に、きっと笑いが止まらなかったでしょう。

しかし、時代は変わるもの。やがて、ブラジルなどで巨大な銅鉱山が見つかり、世界的に銅の値段は下落の一途をたどり始めます。遂に採算が合わなくなり1938年には会社はつぶれてしまい会社幹部は一夜にして姿を消し、それと同時にKennicottはアラスカ最大のGhost Townになったんだそうです。
金に目がくらみすぎですね。写真左の崩壊した建物は一部崩れて木片のガラクタとなっていますが、これは氷河端っこの上に建てていたからです。ちゃんと調べれば分かったんでしょうけどね。要するに建物の一部は既に氷河ともに流れていってしまったわけです。

ちなみに建物の向こうに広大に見える灰色の丘の連続は氷河に泥が被った姿です。蒼白く見えるのが氷河の普通の姿ですが全くそれとは違い異様です。
この建物、築100年くらい。すでに老朽化が激しく、立ち入りを制限されています。一日20人までしか入れません。実際に既にアッチコッチ壊れ始めているのです。
これは建物内の駅です。かつてココで銅を積み出していたはずです。

今回、ツアーで中に入りました。ツアー以外で中に入ることは許されていません。

※ツアー前に『建物崩壊して事故起こり怪我してもツアーコンダクター側は一切責任おいません。それでもいいですね?』という誓約書にサインさせられます。壊れて事故起こる可能性が本当に高いんでしょう。
ギイイ、ギイイィィ〜〜

全く危ない場所です。一歩一歩踏み込む板張りが音立てます...

『うわ、なんだこりゃ、何にも見えんぞ...』
下の方の階は、中はほぼ真っ。なんか、建物の中を見て回っているというよりは、足もとの壊れやすい洞窟の探検、あるいはお化け屋敷って感じでした。やがて目がなれ徐々にあたりの様子が見え始めました。
お、これは天空の城ラピュタの主人公パズーの仕事場の雰囲気そのものですよ。

そんなことは、どーでもいいか。
上に上がると徐々に明るくはなっていく分、洞窟探検気分はなくなってくるのですが、高さが高さです。何気なく建物の中に入って登り始めたのでその高さに気がつきませんでしたが建物は山の斜面を利用して建設されていますので上の方は一番下から見ると凄く高いのです。(建物最上階、高さ30mくらいあります)

かつて、ここに採掘されたばかりの銅鉱がガラガラとベルトコンベアで運びこまれてたことでしょう。滑車が忙しく蒸気で動き、それに駆動された台の上で銅鉱石はガッチャン、ガッチャンゆすられてたらしいです。そして銅を溶解、抽出してたんでしょう。精錬過程は蒸気機関で駆動されていたことが分かっています。目の前のバルブを開けたり閉めたりする毎に、蒸気が『ブシュー』と音立てていたはずです。
ちなみにこの建物の構造から考えて、現代の精錬方法とほぼ同じことを当時やっていた、ということが分かっています。精錬技術は当時と殆どかわってないそうです。
これは、油圧式の滑車のローラーですが今でも凄く滑らかに動きました。100年近く放置されてるというのに... こいつが動いていた当時の姿を想いを馳せました。
最上階付近は、山の上の方から採掘された銅鉱石を精錬所内に取り込む場所です。かつてこのベルトコンベアで銅鉱がガラガラと途切れることなく運び込まれていたはずです。
ここは遂に最上階。このフロア、ホントにガラガラに崩れてましたよ。ハッキリいって、ここはぁ怖すぎます。足元の板張りも壊れないという保障は何処にも無いんだろうと思います。

それにこの場所
凄い高さなんです。このとおり。かつて、この左手の外に剥き出しの階段を銅鉱夫が上り下りしてたんでしょうね... 高さが高さで眺めはいいですが、一直線に下に下りるこの階段は高所恐怖症の人は使い切れなかったんじゃないでしょうか?高所恐怖症でない自分ですら足すくみました。単に高さだけでも結構キテルのに、一歩踏み出す毎に

ギイイ、ギイイィィ〜〜

ですから。これには流石にまいりました。ま、その恐怖感をもって見渡す、周囲の砂を被った氷河(左の写真、真ん中あたりの奴)
それに雪を抱いた山々は綺麗でした。結果、足元の崩れる恐怖と自然の美しさの与えてくれる感動を同時に感じることのできる、またとない場所でした。
ま、最上階は本当に風化が激しくってとんでもないです。一番下あたりのお化け屋敷を思わす暗闇の探検よりも、よっぽど怖い場所でした。これマジで

ガラガラガラガッシャーン

南無妙法蓮華教...

となるのも時間の問題やろ。こんなトコ、普通立ち入り禁止にしないと駄目よ。これを(1日限定20人とはいえ)ツアーで公開しているのは流石にアメリカです。でも、きっとこれは近い将来、完全に立ち入り禁止になるだろうと思います。ホント、危なすぎますから。
でも、この建物最上階で思いましたよ。
かつて、ここ極寒のアラスカにあって、山の上で銅鉱掘り出し、あるいはこの建物の中で銅を精錬しながら

『あぁ〜、最近銅の出が少ねーな。干上がっちまうぜ。』

とか

『ここんとこ、マジで不景気だよな。』

とか、言いあってセッセと働く銅鉱夫達が
この最上階で望む美しい自然を目にしながら心慰められていただろう、と。

St. Elias mountain 5000m級の山 山裾に無数の氷河を抱いてます
このGhost Townツアー

@お化け屋敷探検しみてたい
A高い場所での不安な足元が与える恐怖を体感したい
B建物とともに崩落して大怪我してもOK

という方にはオススメ◎です。結果として

・アラスカにおけるGold Rush時代の歴史に関する知識
・銅精錬の過程についての知識
・頂上からの氷河を抱くWrangel & St. Eliasの山々の眺め

を手にできます。恐怖、感動、知識を一度にまとめて自分のものにできるっちゅうことです。それは足場の崩れやすい山を登頂する喜びに似ていると思います。覚悟してツアーに参加するべきです。

ちなみにMcCathy、Kennicottからは
・マラスピナ氷河他の遊覧飛行
・氷河登り(Ice climbing)ツアー
・Wrangel & St. Eliasの山の本格的登山
・Ghost Townの上の銅鉱山跡までHiking
などがここではできるそうです。時間無いのが残念でした。


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