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デナリ国立公園です。2004年8月、凡人は憧れていたこの場所に遂に来ました。デナリはアサバスカ・インディアンの言葉で『高い奴』、『偉大なるもの』とかそんなニュアンスの言葉です。マッキンリーのことを指します。例年8月のデナリは雨が多く、滅多にマッキンリーを望むことは出来ません。凡人は植村直巳さんを飲み込んだマッキンリーをこの目で少なくとも見たい、そう思いました。デナリ国立公園の中で最もマッキンリーに近く美しく見える場所、ワンダーレイク(左の青丸)をBaseキャンプ地として選びました。 |
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ワンダーレイク・キャンプ場の周辺は典型的にはツンドラが広々と広がってます。写真は早朝、日の出前です。寒かった。夏8月なのに気温朝方0度くらいでした。朝露が当たり一面にビッシャリおりています。この日、好天にもかかわらずやはり火災の煙で曇って見えます。本来、この中心にドカーンとそびえるマッキンリー山があって、凡人のテントから寝転んでそれを眺められる予定でした。しかし、このとおり... |
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マッキンリーの見えない点、そして火災の煙で景色が見渡しがきかない点、これは今回の旅行でもっとも頭を痛めた点でした。ま、眺めるだけでは楽しめない状況である以上、他の楽しみ方をするしかありません。待っていても、何も起こらないと考えたのです。
ですから、この日、朝早くから凡人は起きて行動開始。まず朝食を作りました。乾麺のうどんを煮て、余っていた昨晩のカレーと混ぜくり、カレーうどんにしてたべました。6時頃のことです。 |
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やがてデナリの一日が今日も始まりました。 |
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デナリ国立公園内は、National Park Serviceの運営する緑色のバスがとても役に立ちます。何種類かあるのですがこれはキャンプする人専用のバスです。キャンプする人は席があいていれば、デナリ滞在期間中バスには全てどれも乗り放題です。デナリ国立公園は園内に未舗装ですが道が一本だけ(100`ほどの奴)あります。これを中心に園内を自由に動き回れるのです。 |
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バックパックをしょっていればまさに無敵、園内をこのバスでひょいひょい動き回って好きなところでバスをおり、転々とBackpackを楽しむことが出来ます。園内には人が歩くための道(トレイル)は一切ありません。人が歩く道がない、言いかえれば何処を歩いてもいいそのことがこのデナリ国立公園の最大の特徴なのです。 |
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この日、朝6時半のバスでデナリ国立公園の入り口方向に少し逆戻りしました。マッキンリーを見る別のポイント、アイルソンにまず向かったのです。 |
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アイルソンはデナリ国立公園内でもっともメジャーな場所です。恐らく、デナリに来た人の90%以上の人はここを訪れます。マッキンリーの景色がとても美しい場所だからです。 |
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でも、問題は煙。天気はいいのに、マッキンリーは全く見えませんでした。
(右の写真に薄っすら見えるSnow capped mountainもマッキンリー山ではありません。) |
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そこらを通り過ぎて更に先に進みます。途中、熊を横目にしながら... |
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そして、この日、デナリ国立公園でもPolycrome(左写真の青丸)という場所にBackcountryにでようと決心していました。
そこにはPolycrome Glacierという幾筋もの氷河がある(左写真の緑印あたり)ことがわかっていたからです。凡人はまだ、氷河を見たことがなかったのです。バスの通る道路わきから一番近くて氷河までおおよそ10キロ(往復20キロ)あります。 |
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Polycromeを高い所から望むとこんな感じです。写真左にほうがPolycrome。この高台の下にツンドラの大地が広がり、そこを氷河から来る川が流れているのです。この場所も、ワンダーレイク、アイルソンと同じようにやはり曇っていました。。。本当に、今年の乾燥した季節、そのために生じた大規模な火災には恨めしいようなそういう気すらしました。 |
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バスでちょっと先に進み、バスの運転手さんが凡人に声をかけてくれました。
『さ、polycrome到着だよ。ここを通るバス、最終は夕方6時頃だから。乗り遅れないようにネ。』
と、その言葉だけ残してバスは去っていってしまいました。バスの中で運転手さんと話してたのですが、数日前、Backpackerが日帰りHikingにでて最終バスに乗り遅れ一夜をテントなしで過ごしたそうです。運転手さんの話によると、十分な食事、温かい衣類がなくとても危険な一夜を越したのだそうです。自分もそんな目にあうわけにはいきません、帰る時間には注意しないと...
しかも地図でみる氷河なんて実際には何処にも見えません。視界に広がったのは広大なツンドラだけ。凡人、大地にひとりポツーンと一人たたずんでます。先は煙ってて見通しが利かないのです。
『ゴクリ』
少々、武者震いして唾を飲みこみました。地図で見ても最短距離をもし歩けたとして氷河まで10キロ。 |
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いいかえれば往復20`です。それが最低限の距離となる訳です。
凡人はBasecampにテント、コンロ他主力を置いてきています。手もとには主に昼ご飯と雨具しかありません。明らかに一夜越せる装備ではありません。出来るのはDay
Hikingの範囲です。
手にもった望遠鏡のズームをあげて氷河を探しました。遠くに、山と思われるものがボンヤリと見える、それが関の山でした。やはり氷河は見えません。
『どうしよう、いくのかァ?本当に?』 |
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しばらく、この予定したプランのリスクある可能性を静かに考えました。
『なにも無理、危険承知でやることないじゃないか!』
『馬鹿野郎!デナリまで来てそんな気持ちでどうする!今まで何をやってきたんだよ!一生後悔するぞ!』
そういういろんな自分の中の声が響いていました。曇ったツンドラの大地を前にし空を眺めると、白頭鷲が空を舞っていました。自由に大空を飛び回るこの白頭鷲を見ているうちに、 |
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凡人は目の前に広がるツンドラの台地を一歩一歩、しっかりとした、でもよく見ると少し震える足取りで歩みはじめてました。足元に広がるツンドラの大地には当然、人の歩いた跡はなく、明らかに自分の歩む一歩一歩が最初だと自分でもわかりました。今まで、そんな経験したことありません。
そこに歩く道はない
これがデナリなんだ。これこそが。
足元のコケは深々としておりクッションのようです。一歩一歩が10〜20cmは苔にのめりこむのです。場所、場所では、ジュクジュクと水がそれにあいまって音を立て、とても歩きにくいのです。最初は怖くて仕方なかった... 目の前には広大なツンドラが広がっているのに、煙で視界が効かず、足を苔にとられていると逆に何やら妙な閉塞感すら感じたりしながら歩き始めたのです。
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このJourneyはソロ(単独行)ですから、全てのリスクは自分のものです。さっき、ここに来る途中に見かけた熊は当然この一帯にもいるのは判っています。デナリ公園内である限り何処を歩いても熊の危険はあります。凡人の思う最も危険な状態は熊との一騎打ち。100%勝ち目はありません。凡人の足元のBear
Ringが一歩一歩踏み出す毎に
シャラン、シャラン
と音を立ててはくれますが、こんなに優しい音で本当に熊は逃げて行ってくれるのだろうか?と不安を感じ始めたらキリありませんでした。 |
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どこか暗い目の前の世界は、煙で暗かったのだろうか?それとも、自分の心がそうだったのだろうか? |
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それでも、自分の目の前のツンドラの世界はまるで万華鏡のように次々とその景色を変えました。遠くからだと全く判りませんでしたがツンドラもいろんな地衣類の集合体だったのです。
10cm程の深さの地衣類があるかと思うと、それは急に30cmの深さになり、ある所では膝丈程もの深さのある潅木が自分を取り巻いたかと思うと、自分の背丈よりも少し高いくらいの(それでも2mくらいの低い)森が続いたりしました。 |
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ことに自分の背丈を越す潅木を
バリバリバリ バキ、ボキッ
っと木をかきわけて進むのは大変でした。方位磁石だけが自分の道標であって地図上で見る何処に自分がいるのかなど、確信がもてませんでした。しかも、こういう場所をかき分けて進む時、見通しが全く利かない訳ですから、それは言いかえれば熊に気がつかずに遭遇してしまうリスクそのもの。実際に突然の雷鳥との遭遇に驚いたりしながら、数々の思いを胸にそれでも先に進みました。
『この先に必ず、必ず氷河があるはず!』
馬鹿ですよね。本当にそれだけ、その程度の想いで、凡人ったら、全く何やってんだか。潅木かき分けて原人のごとくゴソゴソと辺りを徘徊しながら、『普通に考えて、俺はアホだ。』と静かに心で思っているのに、それなのに先に進んでました...
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2時間ほど歩いたでしょうか?ようやく少し山なりの場所が目の前に広がって
『ほーら!どうだ♪やっぱし、コッチにほうに氷河を抱く山があるはずなんだ!』
と喜びながらも、山を登れるだけの装備のない自分のことをどこかで心配していました。 |
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その時、目の前に広がりました。
『川だーーー!!しかも汚い!♪!!』
嬉しくて嬉しくて仕方なかったです。潅木をかき分けて、視界が急に開け、この川原に最初に抜け出た瞬間。この汚い川は100%その上流に氷河があることを確信させたからです。これを見かけるまで五里夢中、氷河が本当にある証拠など何処にもありませんでしたから、この川を見つけた瞬間、歓喜の想いが胸に広がりました。それにしても、広い川原です。 |

これは明らかに熊の足跡でした。
さすがにちょっと怖かったかなァ... |

これはカリブー(いわゆるトナカイ)の足跡
会ってみたいなァ... |
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『ギョギョッ! W(゜0゜)W 』
川原を歩くと人の足跡はないのに、熊、カリブーの足跡が彼方此方にありました。ひょっとすると、自分は気がついていなくても相手はコッチに気がついているのかもしれません。安心できない、この場所は...と、そういう思いを再度、胸に持ちながら、それでもつかんだ氷河の手がかり(川)に喜々乱舞して大地を踏みしめ先を急ぐのでした。 |
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右手にBearスプレー、左手に方位磁石
熊の世界、効かない視界、これら2つだけが自分を守り正しい方向へと導いてくれる(ハズの)道具でした。(Bearスプレーって唐辛子粉入りらしい。未だにものは持ってますが熊と遭遇して使ったりしたことはないんでホントのことは分かりませんが。) |
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川原を歩きながら周囲を望遠鏡で望み、自分の位置を地図上で確認しました。
『恐らく、この辺にいる。なんか、予定よりずいぶん西の方にいるみたいだぞ?』
と、少々軌道修正しながらそれでも川原の方が歩きやすく距離が稼げるのでそこを黙々と歩きました。やがて目の前に近づいたむき出しの山を目の前にして、危険とわかっていましたが、そのひとつに少し登って氷河を探そうと心に決めたのです。予定の氷河が全く見えなかったからです。 |
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殆どの山は恐らく氷河による侵食のためだと思いますが、急斜面を砂利、ゴロゴロの小さい石、砂の堆積がその表面をなしており、登山体制(アイゼン、ピッケル、ザイル)のない自分には危ない感じでした。が、いくつかの山はその表面をツンドラが優しく覆っており歩くのに都合がいい状態でした。その一つに登りました。
(写真はFall ColorをみせるFire Weed。アラスカ、極北の典型的秋景色ですね。) |
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その小高い山(丘)を登ると目の前に別の川が現れました。そしてこの川を中心に氷河地形(谷)が広がっています。
『これだ!この川の先に氷河があるに違いない!』
とそう再度確信し胸躍らせました。望遠鏡で見渡しても氷河はまだ見えません。 |
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丘を再度下りその川をツタって、ジャブジャブと歩き(横の潅木かき分けるよりも、川そのものを歩く方が歩きやすかったんです)、 |
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そして、目の前の氷河地形の先に、氷河の存在を信じながら意地で歩いていました。10キロ近く歩いていたはずなのに、不思議ときつくはありませんでした。なにか、夢中だったのだと、そう思います。 |
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最後だ!ひょ、氷河はこの先だぁ!
と、この景色を目の前にして走りにくいこの川原を無我夢中、駆け出してました。 |
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右も左も剥き出しの大地のなす急勾配。草木はそこを覆ってはいません。比較的小さい10cmほどの石が、無造作にガラガラと積み重なっています。遠くない過去にここを氷河が侵食していた、その結果であろうと、そう思いました。 |
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この辺の石、石の中に石が埋まっていたり、地層そのものが石の中に閉じ込められたりしています。これまで見てきたのとは違うそのことに、この先にあるであろう氷河を期待しました。 |
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でも、悲しいことに煙は一層その深さを増し、益々見通しが利かなくなってきたのです。でも、凡人は氷河の存在を信じ、この谷を先に進みました。今更、引き返したりなんか出来ません。 |
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自分の後ろを振り返ると、これまで数時間かけて歩いてきていた川原も、ツンドラの大地、潅木群も全く見えなくなってしまっているのに気がつきました。自分の後ろも、自分の前に広がるのと同じように谷のような風景(氷河地形)が広がり、その先は煙で全く見えません。もちろん、自分を運んできたバスとか、それが通った道路とか、そんなものも全く見えないんです。
ゾーッ
後ろ振り返ってしまったばかりに、急に自分のいる場所のとんでもない自然の迫力を知り、なんだか怖くなってきました。 |
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夢中で歩きすぎか?と思い冷静に辺りを見渡します。周囲の山々は
『何しにきたんだぁ?』
と自分を覗き込んでいるようでした。 |
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右手、左手の氷河による急斜面を見ながら氷のパワーを感じ、圧倒されてしまいました。冷静になって周囲を見渡した時、 |
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自分の周囲の自然の荒々しい姿に鳥肌が立ってしまいました。
『.......(絶句)』 |
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それでも気を奮い立たせてこの前に立ちはだかった氷河地形の最深部目指して突き進みました。
ここが最後に違いない!と
写真にしてしまうとなんでもなく見えますがこの辺り、物凄い急勾配で自分の前に絶壁のように立ちふさがってしまいました。それでもどう考えてもこの氷河地形はこの先の氷河の存在を信じさせるのです。
『よっこらゃしょ』
と足元の石に少々足を滑らせながら先に進み、目の前の急斜面を見あげた刹那 |
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『ガラガラガラ』
と自分の足元の石が崩れ、自分は落ちそうになるのを這いつくばって堪えたました。その時、下のほうに転げ落ちていく石が目に入りました。
『死ぬ、死ななくても、こりゃ大怪我する。
俺はアホか。』
と、その時、とても冷静に思いました。これは、自分の今の装備、今の自分の経験と実力ではハッキリと不可能な相手に向かっているのだと。遂に撤退を決心しました。(写真は撤退決意した最後の現場です。)
長い距離歩いてきていたのですが、不思議と残念だとは思いませんでした。何をおもっていたのでしょうね?そのあきらめた瞬間。そうですね、いうならばこの目の前の自然は自分の力を遥かに遥かに超越している、とそれだけだったようにおもいます。 |
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冷静に考えて凡人には無理なんです。
もっと早く冷静にならなきゃいけませんでしたよ。本当に。 |
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足元を滑らせた時に思ったのは、足場の悪いところは登るべきではないということでした。では、何処を歩けばいいのか?
優しく広がるツンドラです。ツンドラは自分の足場を守ってくれます。 |
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その最終地点の周囲を見渡すと右の方に空高くツンドラが山の表面を覆っている一角がありました。時間はこの時、既に午後2時、もうそろそろ引き返さなければ自分はBaseキャンプに戻れなくなります(最終のCamper's
Busの時間がLimitation)。これに乗り遅れれば、それはテント、寝袋はおろか食糧もなしに寒いアラスカの一夜を越さなければなりません。それはとても危険なことです。この自分の右手のツンドラの覆う場所の頂上付近をもってPolycrome探検の最終地点としよう、と決めました。できれば、氷河が見れれば100点だなぁ。と、かすかに思いながら。 |
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そして、そのツンドラを登りました。かなりの急斜面で苔が足元にあってすら、登ってきた斜面下を見るのは怖い感じでした。地衣類のない剥き出しの場所に足を踏み込むと、足場は簡単に崩れます。やっぱし、どう考えても危ない場所です。足場を守ってくれるツンドラというのはその点優しい... |
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右手のツンドラ最高到達点から山の先の方の眺めです。この煙濃くなった先には氷河があるに違いなかったのですが、この場所まで来てすら、やはり見ることは出来ませんでした。
『凡人だよなぁ〜 俺って...(諦) 冴えん奴だ。ったく。』 |
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と、それでも満足しました。辺りを見回すと自分はとんでもない場所に来ていることをジワジワ感じました。
本当のBackcountryを実感したのはこの場所が初めてでした。何だか、地球を見た、そしてそこを踏みしめてきた、そんな感じでした。目的は果たせませんでしたが妙に満足していました。
『よー、やったよ。』 と |
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イワシの角煮美味しかったよ。お父さん、お母さん。ありがと |
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そこで食べたおにぎり、いわしの角煮、水ようかん、ポカリスエット、最高の味がしました。
昼ごはんをこうして簡単に済ませ、夢にまで見た氷河のあるはずの方に目を向けた時に |
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涙出ました。
『氷河だ...』
(写真も涙で曇ってます。笑)
神様もおつな事してくれるじゃん。
最後に少しだけ幸せをくれました。 |
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そうして、このpolycrome氷河を去ったのです。幸せな気持ちになって... |
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神様って優しいよね。川原を歩きながらPolycrome
Glacierを振り返り、そう思いました。 |
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帰りしな、その川原でカリブー(トナカイ)が目の前50m程のところに現れました。凡人のほうが萎縮してしまい、川原に小さく身をかがめて座って通り過ぎるのを待ちました。 |
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トナカイは自分をしっかり見ながら、悠然と自分の方に歩いてきて |
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『今日は、よー、やりましたぁ 以上』
とでも言ってくれているようでした。その距離10m弱! |
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こうして、デナリ国立公園Polycromeでの一日は無事に終わりました。 |
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今でもまぶたを閉じると思い出すんです。 |
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怖かった、煙まくツンドラの大地に足を沈め、 |
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小さい坂を息せき切ってかけあがり、 |
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身の丈超える木々を切り分け、小川を歩き |
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潅木を掻き分けながら |
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そこを切り抜け川を見つけては胸に抱いた喜びを。 |
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そして川原に見つけた熊の足跡にビクビクしながら、それでも氷河を目指した時間 |
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そしてそこで大きな自然と正面から向き合い |
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一体となった、と感じたその時間の全てを |